東京大学大学院 総合文化研究科合格者の声 7

東大大学院 総合文化研究科の合格者の方からまたまた合格者の声をご投稿いただきました。一言一句変えず、掲載いたします。

 

私が大学院進学を決めた理由は、大学を卒業し社会人として働く中で、「やっぱりもっと勉強したい!」という思いを強く抱くようになったためです。その際に、大学を卒業してからのブランク期間がある中で、そもそも自分自身で明確な合格ラインを可視化させることが難しい院試の対策を独自に行うことに困難を感じたこと、また高橋先生との事前面談を通して良い印象を持ったことから、昴にお世話になることに決めました。

〈語学試験対策〉

私は、幼少期より英語に触れる機会を多々有していたため、昔から英語を読む・書くことが全く苦でなく、むしろ授業を通じて様々な専門領域の英文を読むことに楽しさを感じていました。ただその反面、最も苦手意識を抱いていたのが「英文和訳」です。これまではフィーリングに基づいた直感的な訳で乗り切っており、特に正確な和訳が求められる院試においては、まず文法をきちんと捉え正確な訳語を当てはめていく、という作業にとても苦労しました。しかし、毎回の授業で配布される日本語訳、および高橋先生による丁寧な解説を通じて、英文法はもちろんですが、日本語に訳す際の多様な表現・言い回しについても学ぶことができました。加えて、正確に英文を捉え日本語に落とし込む力と表現力も格段に向上したように思います。

授業外での対策としては、授業中のメモ魔に徹して作成した独自のノートをひたすら見直して復習、という形で行っていました。また英単語は、過去問や授業の中で出てきたものを中心に復習し、それに付随して高橋先生から勧めていただいた洋書を読む、といったように日頃から英文に触れる機会を意識して作るようにしていました。

〈論述試験対策〉

論述試験対策として私が最も意識していたことは、いかなる設問にも対応できるよう、自分の中にできるだけ多くの、そして多様な知識を蓄積するということです。そのため、自分のディシプリンに囚われすぎず、日頃から近接した学問領域およびテーマの先行研究・論文を読みあさり、積極的に知識を吸収するよう心がけていました。また、高橋先生が紹介・解説してくださる他領域の先行研究や理論、添削返却時のアドバイスなども非常に参考になり、論述試験に対して様々な角度からの解答が可能になるとともに、試験の過程で提出が求められる論文、および研究計画書を構成・執筆するにあたっても、その知識を活かすことができたと感じています。

(以上、いただいた「合格者の声」です。)

東大総合文化研究科、合格者の方の別の体験記です。あわせてご参照ください。

東京大学 総合文化研究科・京都大学 文学研究科・早稲田大学 文学研究科合格体験記

東京大学 総合文化研究科合格体験記 1

東京大学 総合文化研究科合格体験記 2

東京大学 総合文化研究科合格体験記 3

東京大学 総合文化研究科合格体験記 4

東京大学 総合文化研究科合格体験記 5

東京大学 総合文化研究科合格体験記 6

東京大学 総合文化研究科合格体験記 8

東京大学 総合文化研究科合格体験記 9

東京大学 総合文化研究科合格体験記 10

東京大学 総合文化研究科合格体験記 11

「合格者の声」一覧のページと、昴のトップページのリンクは以下です。

合格者の声一覧

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東大 国際社会科学専攻の外国語試験対策について

東京大学大学院 総合文化研究科 国際社会科学専攻の外国語試験対策

英語・論述担当の高橋です。

本日は、東京大学大学院、総合文化研究科、国際社会科学専攻(国際関係論分野・相関社会科学分野)の外国語試験対策について記します。

(1)東大 国際社会科学専攻の外国語試験の概要

東京大学総合文化研究科、共通英語試験について」ですでに記しましたように、東京大学総合文化研究科の文系の試験では、「人間の安全保障プログラム」を除くカテゴリーでは、共通試験としての「外国語I(英語)*」と「外国語II」が課されます。「国際社会科学専攻」に属する、「国際関係論分野」および「相関社会科学分野」では、「国際社会科学専攻として共通の問題が出題されます。

*この共通試験については、上のリンクをクリックしていただければ、詳細な分析を提示してあります。

この国際社会科学専攻の外国語試験の特徴として「外国語II」で選択する科目が1科目で良い、ということが挙げられます。外国語Iは最初から英語が指定されています。これに対して、外国語IIでは、「英語・フランス語・ドイツ語・中国語・ロシア語・スペイン語・韓国朝鮮語」のうちから1問を選べば良いわけです。

言語情報科学専攻・表象文化論分野・比較文学比較文化分野・地域文化研究専攻では、外国語IIは2科目選択しなければならず、したがって、英語に加えて第2外国語を学習しなければなりません*。一方、国際関係論分野および相関社会科学分野については、外国語IIで英語を選択すれば、第2外国語を学習していなくても受験することができます**。

*言語情報科学専攻については、外国語の中から「日本古典」が選択可能です。詳しくは「東大 言語情報科学専攻 受験対策について(外国語・専門問題)」をご参照ください。

**総合文化研究科で、ほかに第2外国語を学習していなくて受験可能なカテゴリーは、「人間の安全保障プログラム」と「文化人類学分野」です。前者については「東大 総合文化研究科 人間の安全保障プログラムの試験対策について」のページを、後者については「東大 地域文化研究専攻、超域文化科学専攻の外国語対策について」のページをご参照ください。

このように、英語のみで受験できるのが、東大大学院、国際社会科学専攻の特徴の一つと言えるでしょう。ただし、特定の国の政治や社会を研究する人も多いのがこの専攻です。そうしたテーマで研究論文、研究計画書を提出する受験生は、外国語IIにおいて、その当該地域の言語能力を示すことは必須と考えるべきです。(相対的には英語の方が得意だから、という理由で英語を選択するのは危険です。大学院入試の一次試験は、自分の研究を行うための能力の証明という面が強いため、面接などで厳しく質問されたり、不合格の要因になってしまう恐れがあります。)

英語のみでも受験できるため、合格のための要求が高くなる、と考えたくなるかもしれませんが、昴教育研究所の過去の結果から見る限りは、他の総合文化研究科の他のカテゴリーより特段要求が高いわけではなさそうです。変な言い方ですが、「まあ、普通に難関」といったところでしょう。

(2)東大 国際社会科学専攻の外国語試験

毎回のこの記事での言い訳ですが、私は英語の教師のため、他の外国語の試験内容についてはご紹介できません。ただし、英語以外の言語は、例年、前文を日本語に訳す出題です。時間に対する分量としては、東大総合文化研究科の他のカテゴリーと同程度です。

一方英語試験には、この専攻ならではの特徴があります。まず、基本的に英語は、1問だけ長文の問題が出題されます。出題の分量は、500語~800語程度です。他の専攻よりは長いものだとも言えますが、60分で1問に解答するものなので、時間が足りなくなって解答できなくなる、という可能性は低いでしょう。

そして特徴的なのが、出題形式です。文系で、文献研究を研究の柱(あるいはそのひとつ)とするタイプの専攻の大学院入試で主流の出題形式は、外国語の和訳です。実際、国際社会科学専攻でも、2013年度と2016年度を除けば、英文和訳が出題されています*。しかしその比重は相対的には小さいと考えられます。それ以外の出題形式に注意をすべきでしょう。

*最新の2019年度の入試問題は、まだ公開されていません。公開され次第、このページを更新するか、あるいは別途の分析を掲載します。

英文和訳以外で目立つ出題形式は、本文中の下線部の説明を求めるものです。その中で特徴的なのは、説明に対して、ほとんどの場合、字数制限が課されていないことです。

通常、説明や要約に字数制限が課された場合、自分が作成してみた答案と制限字数から、出題者が想定している説明の密度などが推測できるものです。「50字程度で説明しなさい」と言われれば、それを目安に本文中の該当箇所を把握して、そこを少しパラフレーズしながら答案を作成すれば良いでしょう。一方、国際社会科学専攻の出題のように文字数が制限されていない場合、いったいどの程度丁寧に説明すれば良いのか、という目安が付きづらいです。

この点に関して言えば、教師としてのアドバイスは、「字数を使って、できるだけ丁寧に説明する」というものです。多くの学習者は、「和訳」を好み、「記述・説明」には苦手意識を持っています。そうすると、つい、できるだけ短く済ませたい、という意識が働きます。わからない箇所について記して、そのせいで減点されたらどうしよう、という気持ちも働くかもしれません。

しかし、上述のように、この専攻の出題は、時間的には余裕があります。その分、説明問題では、自信をもって丁寧に答案を作成できる実力のある人と、つい及び腰になってしまう、苦手意識がある人との間で差が発生しやすいと言えます。説明問題だからと怖がらず、普段からしっかりと練習を行い、「わからない箇所をごまかす」のではなく、しっかりと論理的な関係性をつかんで、かつ、パーツを部分訳したような文章ではない、自分の言葉で答案を作成することが望ましいと言えるでしょう。

この点に加えて、もう1点、この国際社会科学専攻の英語試験の出題で注意しなければならないことがあります。それは、「英語による説明」を求める出題が、たまに出題されることです。具体的には、2015年度、2016年度に出題されています。特に2016年度は、4問中3問が英語での説明という出題で、慣れていない受験者はおおいに戸惑ったものと考えられます。英語で説明する場合に陥りやすいのが、本文のコピー&ペーストになってしまう、という状況です。日本語でも、アカデミックな英文の内容を説明するのは難しいのに、ましてや英語では、というわけです。しかし当然ながら、採点者は、本文の切り貼りのような答案は厳しく減点するものと予想されます。その意味では、自らの想念を英語で表現する力が必要になります。(このような部分への対応は、昴教育研究所の英語授業では、木曜日夜に開講する「英語ライティング」で行っています。)

2016年に上述のような試験が出題されてから2年間は、英語での解説を求める問題は出題されていません。完全に邪推ですが、もしかすると、「難しすぎて差が付かなかった」可能性もあるかもしれません。しかし、本来的には、国際社会科学専攻の院生の多くが、英語で論文を書いたり、発表を行ったりということが求められるのですから、いつまた、こういった出題があっても不思議はないでしょう。

(3)東大 国際社会科学専攻英語試験の出題内容

国際社会科学専攻を構成するのは、上述のとおり、「相関社会科学分野」と「国際関係論分野」です。「相関社会科学分野」は非常に広範な領域を含む、学際的なカテゴリーです。また、「国際関係論分野」も、狭義の「国際関係論(International Relations)」だけでなく、国際政治学・国際経済学はもとより、哲学倫理学、計量経済学など、広範な研究者や院生が所属する分野です。その意味では、どんなテーマの英文が出てもおかしくありませんし、逆に、専門用語の訳出の仕方が問題になるような*、極端にある専門分野に偏った出題でもありません。

*しかしそもそも、大学院入試の英文の理解において、「専門知識」が無ければ解けないような出題はありません。「専門知識」を強調することは、無知・誤解によるものか、さもなければ、ある種の脅し(ブラフ)として、難しさを印象付けようとするものであると思います。院試の英語は「難しい」です。しかし、その難しさは、英語をちゃんと学習し、かつ、知識などに頼らずに与えられた文の内的論理を追いかける力を身に着けることの難しさに帰着します。

ただし、一定程度、専攻の「色」とでも言うべき特徴はあります。過去の出題で目立つのは(1)昨今の技術革新がもたらす社会変化に関する出題(2)ある学問の方法論を問題にしたり、複数の学問領域をまたがることで、学問の存立基盤そのものを「批判」するメタレベルの議論(3)国際的な共通課題、貧困や環境に関する出題です。

ほとんどの場合、学術論文や文献の序論や、研究者が書いたエッセイなどからの出題です。語彙の難易度が高いのみならず、出題の文の筆者が言おうとしていることも、抽象度が高かったり、論理的な展開が難しかったりします。その分、「読み応えがある」と評することもできるでしょう。その意味で、表層的に英語の文を日本語に置き換えるだけでなく、「今まで考えたこともないテーマについて、いきなり英語で読んで考える」ということ(これこそ、「外国語を使って研究する」ということの本質ですが)に慣れていく必要があるでしょう。

基本的には、アカデミックな英語をしっかりと読み慣れていけば、十分対応できる出題だとは言えます。昴教育研究所の英語授業でしっかりと練習を積んだ受講生のみなさんは、しっかりと対処できています。助言としては役立たないかもしれませんが、結局のところ、しっかりとした英語力を身に着けることが、合格のための王道だと言えます。

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東京大学大学院 総合文化研究科合格者の声

東大大学院、総合文化研究科合格者の方から、合格者の声をいただきました。
送られてきた原稿を一言一句そのまま掲載いたします。

【受講のきっかけ】

大学院を目指す理由は様々ですが、私は大学卒業後、そのまま院に進みたいと思っていました。しかし当時は家族からの反対があり、学費の目途もすぐに立たないので、とりあえず2~3年働いてみてから行こうと考えていました。そして仕事をする中で、元受講生だった知人に紹介されたのがきっかけで、昴への入学を検討するに至りました。

入学前に面談をして頂いたのは高橋先生だったのですが、写真をテーマにした卒論の内容に関心を持って下さったのをはじめ、自分の専門分野に対して明確なアドバイスを頂けるということがよくわかり、ここを受講して間違いないと感じました。

また、検討段階の際、高橋先生の書かれた英語の参考書を購入していたのですが、
例文のテキスト自体が面白く、(ただ文法を理解するための文ではなく、読むと原作者の問題提起が垣間見れるようなテキストが多くあります。)芸術系の文献もここまで載っている参考書は初めてだったので、非常に興味をひかれたというのがありました。

【筆記試験対策】

昴には本科生として入り、英語全般の授業と論述対策を受講しました。
英語に関しては、リーディングの文章理解に今まで自信がなかったのですが、
読めない理由は、文構造を理解しているふりをしてきたからであると自覚し、

基礎的な授業も取ることで克服していこうと考えました。

過去にやっていたTOEICやTOEFLの勉強では、過去問を繰り返し解くことで点数が伸びていった経験があったので、院試の勉強でも同じように、まずは過去問を解くことを継続的にやってみました。特に繰り返して解いていたのは「院試問題演習」の過去問と、高橋先生の参考書です。わからない単語は別のノートに書き写し、そちらも繰り返しチェックしていくようにしました。

【論文対策】

入試では論文提出が必須だったのですが、大学院での研究テーマは卒論と方向性が若干違うので、1から執筆しました。日中は仕事のため、早朝と18時以降の時間をどうにかやりくりして完成させました。学生の時と違い、大学図書館にアクセスしずらいのは難点でしたが、Amazonなどを武器に頑張りました。また、高橋先生からも参考文献をその都度お貸し頂き、大変参考になりました。

【受講を考えている方に】

私の目標は、2~3年働いたら大学院で研究活動を再開することでしたが、

昴に入っていなかったらその目標は、確実にもっと先延ばしになっていたと思います。

土曜日は9時から17時半まで授業を入れていたので、最初はきつかったですが、(授業は大変面白かったのですが、集中力的にということです。)実際の試験時間は本当に長いので、通しの授業は少しも無駄になっていなかったどころか、試験時間に慣れておくのに最適な1日だったと今になって思います。

ただ私は、そのような試験に必要なトレーニングを超えたところに、昴の真の魅力はあると思います。それは、知的好奇心を他分野まで拡大させてくれる場所であることです。一例を挙げれば、私は授業中に聞いたジェンダー研究や文学研究、社会学領域の内容にとても刺激されました。また、例えば談話中に紹介された多和田葉子さんという作家を、私は恥ずかしながら今まで知らなかったのですが、とても面白い小説を書く方で、試験が一段落した今夢中で読んでいます。

昴で勉強しようかお考えの方は、面談の予約をされるのをお勧めします。

受験を考えているみなさまに、より良い未来が訪れますように!

(以上)
他の東大・総合文化研究科合格者の方の体験記です。あわせてご参照ください。
合格者の声一覧は以下のリンクをクリック。

東大 総合文化研究科 人間の安全保障プログラムの試験対策について

東京大学 総合文化研究科 人間の安全保障プログラムの入試対策

英語・論述担当の高橋です。本日は、東大総合文化研究科入試における8つのカテゴリーのうち、「人間の安全保障プログラム(略称HSP)」の受験対策について記したいと思います。以下、5つの項目に分けて執筆します。

「8つのカテゴリー」については、「東京大学 総合文化研究科(文系)専攻 入試対策概要」をご覧ください。

*以下の解説は、基本的に、1月~2月に試験が行われる「一般選抜」を念頭に置いています。7月に試験が行われる「社会人特別選抜」については、日を改めて記します。

(1)「人間の安全保障」概念をめぐって
(2)東大 総合文化研究科 人間の安全保障プログラムの仕組み
(3)東大 総合文化研究科 人間の安全保障プログラムの入試の特徴
(4)東大 総合文化研究科 人間の安全保障プログラムの専門試験の対策
(5)東大 総合文化研究科 人間の安全保障プログラム 提出書類の対策

(1)「人間の安全保障」概念をめぐって

(この項目はアカデミックな内容を中心に書いているので、院試の情報を手早く得たい方は読み飛ばして(2)に行ってください。)

「人間の安全保障(human security)」の概念は、良く知られたことですが、ノーベル経済学賞を受賞したインドの経済学者、アマルティア・センが提唱した概念です。従来「安全保障」と訳される概念は、securityでした。これは基本的に、国家間の関係から紛争を管理する発想です。しかし、冷戦が終わったあとに噴出した民族紛争や内戦、また、従来より存在していた世界の南北間の経済格差の大きさなどから、国家の枠では捉えられない一人一人に焦点を当てたアプローチが必要になってきます。そうしたなかで、この「人間の安全保障」の概念は、問題含みの面もありつつ、国際社会で掲げられる理念になってきました。

この概念は、広範であり、それゆえに曖昧な面もあり、以前より「人権」などの概念に拠って行われてきた活動と必ずしも区別できません。(また、別に区別しなければいけないわけでもないでしょう。)ただ、「ケイパビリティ・アプローチ」という言葉が知られるように、教育やコミュニティに焦点を当てるアプローチを重視する方向へと国際協力を導く一助になっていると考えられます。また、従来は、発展途上国への支援に重点がありましたが、いわゆる先進国の中でも、相次ぐ災害や、新自由主義的経済政策のもとでの格差の拡大*などの影響から、「人間の安全保障」の理念を当てはめて論じたり、活動したりすることも増えています。実際過去の昴からの合格者でも、日本での問題に焦点を当てて論文を書いた人もいます。
*余談ですが、東大の人文社会系研究科の2016年度の英語試験では、トマ・ピケティの『21世紀の資本』の書評が出題されています。現在の経済的な格差の拡大にたいする問題意識は、人文・芸術系の諸学でも多いに共有されるようになっていることを反映したものだと言えるでしょう。

上記の点にも関連するところですが、筆者自身が関心を持つテーマに引き付けて、「人間の安全保障」という理念の今日的意義、あるいは問題性についても簡単に記します。

日本でもよく知られ、翻訳もたくさん刊行されているアメリカのフェミニスト、ジュディス・バトラーは、21世紀に入ってから、Precarious Life: The Powers of Mourning and Violence(『生のあやうさ―哀悼と暴力の政治学』)や、Notes toward a Performative Theory of Assembly(『アセンブリ―行為遂行性・複数性・政治』)などの著書を中心に、 “precarity”あるいは “precariousness”という言葉を一つの軸にして議論を行っています。いずれにせよ、なかなか訳しづらい言葉(上記のように、書籍のタイトルとしては「あやうさ」という訳が採用されています)ですが、それが意味する内容は明瞭です。2001年9月11日の事件以降、世界の多くの場所で、「テロとの戦い」と呼ばれる戦争が遂行され、それはテロと関係ない人々の命を奪い、生活を破壊してきました。また、近年、「新自由主義」という言葉に加えて、「緊縮austerity」という言葉が経済体制と国家政策を論じる言葉として焦点が当たっています。財政難などの名目で、福祉が切り下げられていくなかで、従来ならなんとか生をつないでいた人々の命が脅かされています。また、経済発展を遂げつつある多くのアジアなどの国々の都市では、深刻な大気汚染が人々の健康を蝕むとともに、様々な鉱山などの労働者にも、慢性的な身体の不調が襲い掛かります。これは本当に一部の現象を挙げただけですが、現在の社会では、「ほとんどの人々が、ただし異なった度合い・仕方で」生を危うくされている。このことがこのprecarity/precariousnessという言葉には込められています。

上記の「ほとんどの人々が、ただし異なった度合い・仕方で」という言葉が、この理念を理解するうえで肝要です。それは一方で、現在、「問題なく生きていけている」と感じている人々でも、いつ、何かの病気になって、生きていくのが困難になるかもしれない。また、「普通にやっていく」ことをめぐる、身体的・精神的負荷の大きさは、私たちの日常でも実感されます。一方でバトラーは、こうした自分自身の生のあやうさを、他者の生のあやうさへと連帯する可能性として考えます。しかし他方で、こうしたあやうさは、万人に平等に影響するのではなく、異なった仕方で、一部の/しかし非常に多くの人々の生をとりわけあやうくするものでもあります。こうした点を看過してしまえば、それは他者への想像力をかえって損ない、ともすれば、それぞれの人々が置かれた条件の差異を無視してしまうことにもつながりかねません。

「人間の安全保障」は現在、上記のような問題の大きな要因になっているもろもろの体制が、公的に掲げることのできる理念となっています。その意味では、「人間の安全保障」は、 “precarious life”を生み出している体制の一部を担っているとも言えるでしょう*。ただ、単にそうしたものとして「人間の安全保障」を批判し捨て去ってしまうばかりが取りうる方策ではないでしょう。「人間の安全保障」という理念の動員のされ方、それがもたらすものについて、常に批判的な視点をもちながら、その内部で世界をより生きやすくしていくことも、重要な仕事だと言えます。また、過去の合格者などの書いた論文や、その後の報告から、東京大学の「人間の安全保障プログラム」は、そうした批判的視座を包摂することができる枠組みであると考えます。
*一例を挙げれば、Angela McRobbieはThe Aftermath of Feminism: Gender, Culture, and Social Changeにおいて、ケイパビリティ・アプローチと、新自由主義体制における起業家精神の強調との共犯関係を論じています。

(2)東大 総合文化研究科 人間の安全保障プログラムの仕組み

上述のように、「人間の安全保障」は多岐にわたる領域での活動と理念を含んでいます。そうした点を反映してのことだと思いますが、東大の「人間の安全保障プログラム」は特定の専攻としてではなく、様々な専攻に所属して研究・活動を進めていくことができるようになっています。具体的には、文系の専攻で言えば、「国際社会科学専攻(国際関係論分野・相関社会科学分野)」「地域研究専攻」「言語情報科学専攻」「超域文化論専攻(文化人類学分野・表象文化論分野・比較文学比較文化分野)」、また、理系の専攻である「広域科学専攻」のいずれかに所属しながら、人間の安全保障プログラムとして研究・実践を進めていくことができます。

なお、上記のような所属を希望する専攻によって、異なる入試を行うわけではありません。入試では、「人間の安全保障プログラム」として共通の試験が課されます。

(3)東大 総合文化研究科 人間の安全保障プログラムの入試の特徴

東大の「人間の安全保障プログラム」では、独自の語学試験は実施せず、「英語能力を証明する書類」として、TOEFLないしはIELTSのスコアの提出を求めています。

注意すべきは、TOEICが利用できない点です*。人文系・社会科学系の大学院の場合、それほど多数派ではありませんが、理科系や公共政策大学院などでは、TOEICを利用できる大学院が多く、そのためにTOEICの勉強をしている人は多いでしょう。一方で、writing, speakingを求めるTOEFL、IELTSのスコアを上昇させるにはかなりの期間と努力が必要であり、そのため、早い段階から準備を進めていく必要があります。
*「人間の安全保障プログラム」の入試案内には、「TOEICはアカデミックな英語力をはかるものではないため受理しない」と述べられています。個人的に、この理念は素晴らしいと思うし、今後とも維持していってほしいと思います。

上記の英語力の証明書類とは別に、専門に関する筆記試験が課されます。これについては次の項目(4)をご覧ください。また、合否を左右する重要な要因として、「提出論文」「研究計画書」があります。これについては(5)の項目をご覧ください。

(4)東大 総合文化研究科 人間の安全保障プログラムの専門試験の対策

「人間の安全保障プログラム」の専門問題は、第1問が共通問題、第2問が選択問題です。

第1問は、「人間の安全保障」をめぐる一般的な問題です。ただし、出題の内容には、東大「人間の安全保障プログラム」ならではの問題意識もうかがわれます。2016年度の出題では、「人間の安全保障」の「人間」の意義について問う問題が、2017年度の出題では、「人間の安全保障」の理念の発展可能性を問う問題が出題されています。さらに2018年度には、「人間の安全保障」概念が国連で提起されて以来の時間の流れのなかで、この概念を批判的に再検討することが求められています。

この「第1問」に解答するにあたっては、「人間の安全保障」という理念の曖昧さへの理解が重要です。どこかに「人間の安全保障」についての完璧な定義が存在して、それを記せば合格できる、というような考えは捨てましょう。この言葉がどのような経緯で提起され、どのような活動と結びつけられてきたか、という点をめぐる最低限の理解は必要ですが、むしろ、そうした理念と歴史的展開を踏まえながら、「人間の安全保障」がもつ今日的意義や、その問題性を批判的に検討することができる受験生を求めるものと言えます。

第2問の選択問題では、与えられたキーワードを、「人間の安全保障」と関連付けて論じることが求められます。2016~2018は、8問中から1問選択して解答する形になっています。

与えられるキーワードは、「京都議定書」「パリ協定」などの具体的な国際的取り決めから、「生物多様性の保護」などの理念、「緑の革命」などの開発経済学の歴史に関わるもの、また、「格差社会」「性暴力」といった、より具体的な出来事、さらには、「bio-power(生権力)*」「例外状態**」といった、よりアカデミックな用語まで様々な用語が出題されます。そう聞くと難しく感じるかもしれませんが、実際には、8つの用語のなかで1つを論じられれば良いわけです。「人間の安全保障」という枠組みのなかで研究を進めたり活動していきたいと考える人なら、1つは論じられるテーマがあるはずです。特定の本を勉強するよりも、過去問をチェックしながら、自分が特に関心がある問題の現在の状況やこれまでの経緯などを調査していくことで、実際の試験で論じるために必要な知識や問題意識を養っていきましょう。
*bio-power(生権力):フランスの哲学者、ミシェル・フーコーに由来する概念。類語として、bio-politicsなどがある。今日非常に多くの分野(国際関係論、フェミニズム、クィア・スタディーズ、ディサビリティ・スタディーズetc.)で参照され、重要性を増している概念である。
**「例外状態」:もともとはドイツの法・政治哲学者、カール・シュミットに由来する概念である。今日では、イタリアの哲学者、ジョルジョ・アガンベンがシュミットからさらに発展させた概念として参照されることが多い。

なお、私が担当する昴教育研究所の論述対策講座では、こういった出題に対する徹底的なアウトプットを通じた対策を行っています。
(リンク「論述対策講座について」)

(5)東大 総合文化研究科 人間の安全保障プログラム 提出書類の対策

東大の「人間の安全保障プログラム」では、上述の英語試験と専門問題に加えて、二次試験までに、「論文等」および「研究計画書」の提出が求められます。英語試験のスコアと筆記試験の得点だけでは判断材料としては弱いため、この「論文」および「研究計画」が合格に大きな影響を及ぼすと考えるべきです。

まず理解しておくべきは、「研究計画書」は「論文」に付随する位置づけである、という点です。研究計画書は「今まで学習・調査してきて、どんなことがわかっているか」を基盤にして、「これからさらにどんな研究・調査の可能性があるか」という点を記すものです。したがって、現時点で自分が明らかにしていることを示す「論文」をしっかりと完成させることなく、「研究計画書」だけを作成することは不可能です。

「論文」を作成していくにあたって、「人間の安全保障プログラム」で発生しやすい問題を記しておきます。この領域の研究・活動は、実際に現地に行って、調査を実施するフィールドワークを含むことが多いです。この場合、実際にすでに、NPO・NGOやJICAなどで活動や調査に携わったことがある人なら対処できますが、大学の学部生から「人間の安全保障プログラム」の大学院を目指す人の場合、こういった経験を経ていない場合が多いでしょう。

こうした場合、文献を通じて調査を進める必要があります。しかし、現在進行形で発生している問題に対する文献資料は限られたものであり、過去の実際の合格者のテーマでも、日本語で単行本の文献があれば良い方で、多くのテーマでは、ホームページなどに挙がった報告などしか参考にすることができない状況でした。こうした場合に有効なのは、英語文献、英語論文を参照することです。国際協力などの分野では、日本語で書かれたものに比べ、英語で書かれたものは数十倍の分量があります。そうしたものを、できるだけ多く集め、少しでも読み込みながら、現地で調査ができない部分を積極的に代替していくことが必要になります。

一方、すでに調査・研究の経験があり、データを持っている人も、それで安泰というわけではありません。調査・研究を、単に「事実」として報告するだけでは、東大の「人間の安全保障プログラム」はもとより、その他の大学院でも合格は望めません。そうした事実を枠づけるために、当該地域の歴史についての幅広い文献を集め参照する必要がありますし、また、自分が行っている活動が、よりグローバルな文脈のなかで、どのような意義を持つのか、に対する注意も払う必要があります。その意味では、上記の受験者と同様に、日本語に限定されない幅広い文献資料を利用することが必要になってくるでしょう。

幸い、昴教育研究所では、「人間の安全保障プログラム」にこれまで多くの合格者を輩出してきた実績があります。もちろん、このページを見ている方が皆、昴での研究指導に関心を持っているとは限りませんが、ちょっとでも関心を持った方は、ぜひ昴がどのようなサポートができるのか、お問い合わせください。

(リンク「昴の研究指導」)

このページをご覧になった多くの方が、十分な準備をして良い結果につなげられることを願っています。

昴教育研究所講師 高橋

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東京大学大学院 総合文化研究科 合格者の、「合格者の声」5(人間の安全保障プログラム)

東大総合文化研究科合格者の方より、合格者の声を送付いただきました。
原稿をそのまま掲載させていただきます。

【合格体験記/HSP】

私が昴教育研究所への通学を決めたのは、入試まであと一カ月をきるという、まさに直前でした。院試が近づくにつれ、「合格したい」という思いが強くなる一方、独りよがりの自問自答に限界を感じ、研究計画書や論文を客観的に指導していただきたいと思ったことがきっかけです。

初めて高橋先生の面談を受けたとき、理論的枠組みや参考になる文献をいくつも紹介していただきました。「大学院予備校として、受講生を大学院へ合格させる」のではなく、「大学院へ通った後の研究活動に資する知識を醸成すること」を目指している点に魅力を感じました。

高橋先生の授業では、研究計画書や論文で整理しきれなかった箇所について、先生からアドバイスいただき、より自身の考え方に近い表現や理論的枠組みを入れ込むことで、研究計画書や論文を大幅に改善することができました。この過程において、常に自身の研究と向き合い、文献や理論的枠組み等で不明瞭な点を一つひとつ咀嚼し、知識として吸収することができました。このような授業を通じて、「大学院に入学し、より深く研究したい」という強いモチベーションを保つことができました。

(以下、事務局より)
東大総合文化研究科の、他の合格体験記は以下にございます。あわせてご参照ださい。

東京大学 総合文化研究科・京都大学 文学研究科・早稲田大学 文学研究科合格体験記

東京大学 総合文化研究科合格体験記 1

東京大学 総合文化研究科合格体験記 2

東京大学 総合文化研究科合格体験記 3

東京大学 総合文化研究科合格体験記 4

東京大学 総合文化研究科合格体験記 6

東京大学 総合文化研究科合格体験記 7

東京大学 総合文化研究科合格体験記 8

東京大学 総合文化研究科合格体験記 9

東京大学 総合文化研究科合格体験記 10

東京大学 総合文化研究科合格体験記 11

合格者の声一覧は以下のリンクをクリックしてください。

合格者の声一覧

東京大学大学院 総合文化研究科 合格者の声 4

東大大学院、総合文化研究科合格者の方から、合格者の声をいただきました。
送られてきた原稿を、一切手を加えず掲載いたします。(昴事務局)

今から約一年前、東京大学大学院の修士課程に出願すると決心した時、ネット上で情報収集として検索した私は、昴のHP(当初)にあげられた「今後の学術研究にも生かせる」、「入学後も困らない英語力」という理念にすぐに惹かれました。というのは、院試合格するまでの課題は、英文和訳、専門テストの論述問題と研究計画という少なくとも三つがあると思いまして、しかもそれらの解決への努力は大学院入試のみならず、今後の学習・研究人生のQOLにも強く関わるものだと心がけていたからです。さらに、昴研究所に連絡し、高橋先生と一回目の面談の後、私はここでの授業は自分のアカデミック英語の腕を磨き、論述能力を伸ばし、さらに研究計画の指導を受けるという「悲願」にぴったり当てはまると確信するようになりました。入学相談の後間も無く、私は年間本科生を申請し、高橋先生の担当された授業と研究計画の面談を受け始めました。

英文和訳に関する授業、及び論述講座においては、自分の専門のみならず、他のコースの入試問題にも触れる機会を頂きました。最初に自分の馴染みではない専門の英語を読んでみるとき若干の恐怖感を覚えていましたが、だんだん和訳のポイントも予測できるようになれます。さらに、いろんなジャンルの英語の素材に出会うからこそ学びが大きいと感じていました。また、高橋先生の解説では、文構造の分析、関連する表現のまとめ、多義の選択、語形成、及び問題の出所に関連する背景知識など非常に濃密な内容をコンパクトして懇切丁寧に解説してくださいますので、自力だと難しそうな問題でも演習の授業でチャレンジできます。また、一見簡単出そうな入試問題にも実は穴場があり、減点されやすいところがしばしばありますので、先生はそこもずばりと要点を示して注意を呼びかけてくれました。また、論述講座において、まず分野に問わず論述の基本原則と論述文の構成を教わることが可能です。実は私は以前から先行研究の羅列、或いは話があちこち飛んでしまう小論文しか書けないような人間で、講座を受けた最初の時期ではしばしば「C」、「C’」の評価しかもらわなかったですが。それでも毎週の論述の講座と実習を通してじわじわ成長して、全体の枠、分量、及び時間を意識し、合格ラインに入るレベルの論文を書けるようになりました。さらには、問題に応じて、専門を俯瞰する「王道」、及び一つの側面の例を論証にする「覇道」の書き方を選択できるようになりました。「書けば書くほど上手になる」というのは誰でもわかる理屈ですが、論述の指導と訓練を頂いたことがなければ、このような意識をみにつけて、また1年間でここまで成長することは想像し難いです。

次に、研究計画の作成については、私は本科生コースの面談を受けました。無論高橋先生より書き方のアドバイスや表現の添削を頂きましたことがありますが、私にとって最も印象的なのは方向性と内容の検討でした。個人の感覚ですが、研究計画について、希望の先生の好みに近づけて受けるためのものを作ること、及び自分の本当にやりたいことを誠実に書いて、責任をもってやり遂げるための計画を書くこと、及びそれらを混ぜるタイプなど、複数の価値観が存在するようです。正直、私も当初揺れたことがあります。最初は出願先の先生の分野に寄せるように試みましたが、高橋先生のアドバイスを踏まえて、自分のやりたいこと、及び今までやったこととのつながりをもっと考慮に入れて、計画のテーマを見直しました。今から見ると、特に学部生から院生に「進化」し、個人の狙いを「勉強したい」から「研究したい」にだんだん移る段階で、高橋先生のような若手研究者の立場からのお話を伺うことは非常に大事だと感じています。この出会いには心より感謝しております。

最初考えた通り、これからの院生の生活においても、高橋先生のもとで学んだことを生かして、英語の語学力、論述の能力、及び研究計画を立てる能力をさらに伸ばしていきたいです。昴での一年間、誠にありがとうございました!

(以上が合格者からお送りいただいた「声」です。)

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東京大学大学院 総合文化研究科 合格者の声 3

東大大学院、総合文化研究科合格者の方から、合格者の声をいただきました。
送られてきた原稿を一言一句そのまま掲載いたします。

「わたしにとって、昴は学びの稽古場でした」

おそらく、この合格体験記を読んでくださる方は、大学院入試を控え、昴に通って受験対策を進めようかと迷っている方が多いのではないかと思います。ここでは、そのような方に向けて、わたしが昴で感じたこと、受験勉強を進める中で実践していたことをお伝えできたらと思います。

昴という場についてですが、大学院入試のための予備校と呼んでしまうのには少し抵抗があります。というのも、昴は、冷たく機械的に知識をインプットされるような空間ではないからです。わたしは主に英語と論述対策で高橋先生、フランス語対策に中島先生の授業を受けていたのですが、それらは各々の先生がもっていらっしゃる学びへの姿勢が反映された、血の通った言葉にあふれた空間だったと思います。

まず、英語の授業ですが、内容の詰まった濃い空間です。様々な英文を読む中で、文構造はもちろん、重要な文法事項から細かな単語の用法まで丁寧な解説が聞けます。一回の授業で得られる情報は相当なものだと思います。(まともに英語の受験勉強をしたことのなかったわたしは、その場で理解するというよりノートを取るので序盤は精一杯でした汗)でも、安心してください。一度に消化できなくても、重要な文法事項を繰り返し練習できるようにしっかりと授業を計画してくださっています。受講を重ね、音読を主に復習を繰り返してゆけば、段々と、「あっ!これは、前に見たぞ!」と文法事項に気づけるようになってゆきます。文構造をとる感覚も身体にじわじわと身についていきます。

フランス語の授業は、ユーモアに富んだ空間です。ギャグセンス抜群の中島先生の授業は笑いのボキャブラリーもさることながら、その引き出しの多さと引き出すリズムには凄まじいものがあります。仏文和訳の過去問を読んでゆく中で、関連する単語を映画や文学、政治など様々な文化事象にからめながら、自由連想的にするすると紹介してくださいます。どれもが印象的にインプットされます。また、和訳解説に文法事項についてのコメントが寄せられているのですが、それが愛のある辛口です。「これを知らなかったら恥!」とか「まさか、知ってますよね」などのコメントがあったりします。授業中、これらの言葉が音声化されることはないのですが、楽しい授業の中でも、自分の仏語レベルを確認し、反省し、一つ一つ身につけてゆくポイントになっていたと思います。

論述対策は、毎回、各々の専門分野の過去問を解き、次の授業で、自分が回答した問題についての解説を聞くことができます。人文、社会科学を横断する幅広い高橋先生の視野と知識を盗める貴重な時間でした。毎週、回答は一人一人の分を先生が丁寧に添削して下さいます。論述対策では、回答の評価だけなく、新しい論述の切り口の提示など具体的なコメントがもらえます。昴で得られる学びのプロからのフィードバックは、「返答」というより、独学では与えられない「場」に近いものではないかと思います。自分の回答がどう読まれるのかを体感し、それを繰り返す中で、アウトプットが生きたものとして身体に身についてゆく場、「稽古場」という言葉が近いのかもしれません。

最後に受験勉強の中で、わたしが実践していたことについて、二つほど、お伝えできればと思います。一つ目は語学対策について。一番効果的に感じたのは「音読」です。授業で学んだ英文や仏文を声に出してゆくことで、文法や単語、文構造をとる感覚が身体に染み込んでいきました。二つ目は論述対策について。わたしは、論述の回答に際して使える具体例(データとしては作品名、作者、なるべく中立的な自分の言葉で書いた作品解説)を書いた「ネタ帳」を作っていました。論述の引き出しは、形にして残しておくとアウトプットしやすくなると思います。

「音読」の反復練習と「ネタ帳」をもって、語学や論述を身につけに「稽古場」へ行くと、そこは学問する先人である先生方が待っておられる。わたしの受験勉強の日々は、そのような人間の温度のある「場」の経験に支えられていました。心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

(以上)

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東大 地域文化研究専攻、超域文化科学専攻の外国語対策について

東京大学総合文化研究科、地域文化研究専攻・超域文化論専攻の外国語試験対策

英語・論述担当の高橋です。

本日は、東京大学大学院、総合文化研究科のうち、地域文化研究専攻および超域文化論専攻(表象文化論分野、比較文学比較文化分野、文化人類学分野)の外国語試験対策について記します。

(1)東大 地域文化研究専攻・超域文化論専攻の外国語試験の概要

地域文化研究専攻および超域文化論専攻(表象文化論、比較文学比較文化、文化人類学)についてまとめて記す理由を含め、この4つのカテゴリーの大学院入試語学試験について、その概要を記します。

すでに「東京大学 総合文化研究科 共通英語試験対策について」で記したように、東大総合文化研究科では、TOEFLあるいはIELTSのスコアで選考を行う「人間の安全保障プログラム(HSP)」以外では、主として英文和訳および和文英訳を問う「英語I」という科目が共通して課されます。これに加えて、各専攻ごとに、1~2言語の試験としての「外国語II」が課されます。

東京大学総合文化研究科のうち、「地域文化研究科」および、表象文化論分野、比較文学比較文化分野、文化人類学分野から成る「超域文化科学専攻」では、この外国語IIで共通した問題が扱われます。そのため、本日の記事ではこの4つのカテゴリーをまとめて記します。

なお、上記のうち、「文化人類学分野」は外国語IIにおいて、1つの言語を選択することを求められます。したがって、外国語IIで英語を選択すれば、院試において英語のみで受験することが可能です。
(ただし、「東京大学 総合文化研究科(文系) 入試対策概要」でも記したように、文化人類学という学問は、特に日本以外をフィールドにする場合、言語能力に依存する比重が高いので、「英語のみで受験できる」などの理由で志望校にするのは危険です。たとえば、韓国をフィールドとして研究しようとする受験生なら、外国語IIにおいては「韓国朝鮮語」を選択することが当然に求められるでしょう。)

「地域文化研究専攻」「表象文化論分野」「比較文学比較文化分野」の受験生は、外国語IIの外国語科目(英語、フランス語、ドイツ語、中国語、ロシア語、イタリア語、スペイン語、韓国朝鮮語)のうち2科目を選択し、6問中5問を選択して解答しなければいけません。

また、「地域文化研究専攻」の場合では、対象とする地域の言語を優先して解答しなければなりません。たとえばフランスを対象とする場合には、フランス語3問を解いたうえで、英語の3問のうち2問を選択して解答する必要があります。

ただし、「社会人」の枠で応募する場合、第二外国語の試験が免除されている場合もあります。詳しくは、東京大学ウェブサイトの以下のページもご参照ください。

東大総合文化研究科 「修士課程・博士課程への出願」(外部リンク)

(2)東大総合文化研究科、地域文化研究専攻・超域文化論専攻の外国語試験

毎度のことですが、私の専門は英語ですので、英語を中心に記します。ただし、先に他の外国語の試験の形式について述べます。

「地域・超域」(と昴では呼んでいます)の外国語IIの多くの言語では、その言語を書く能力ではなく、その言語を理解する能力が問われます。ほとんどの言語では、3問とも、「日本語に訳しなさい」あるいは「和訳しなさい」という指示になっています。その点で言えば、外国語を読む能力に主眼を置いて力をつけていくことが大事ですね。総合文化共通問題である「英語I」では「和文英訳」が出題されますが、たとえば「英語+フランス語」での受験者の場合、フランス語を書くことは求められません。

ただし、韓国朝鮮語だけは、日本語の文を韓国朝鮮語に訳出することが求められています。この問題は、分量も多く、なかなか手ごわいかな、と思います。

(3)東大総合文化研究科、「地域・超域」の英語問題

「地域・超域」の英語試験でも、英語を書くことを求める問題は過去20年ほどさかのぼっても出題されていません。「英語I」では和文英訳などが出題されるため、そちらの対策も必要ではありますが、「言語情報科学」のような、英語の筆記力を厳しく問う問題は出題されていません。(→言語情報科学対策についてはこちら

ただし、試験形式は英文和訳には限定されません。かつては、「数的処理能力(numeracy)」についての英文を150~200字の日本語に要約する問題(2006年度)や、「イヌの飼育とヒトの言語能力」についての英文を200~250字の日本語に要約する問題が出題されていました。2007年度の、「アメリカ同時多発テロ事件以降のobituary(追悼文)」をめぐる英文についての問題のように、500語を超える長文問題も出題されていました。

それと比べると、近年は、英文和訳の出題の比重が増し、また、出題の分量も200語程度かそれ以下の問題が増えてきています。これに伴い、かつての「時間が足りない」という問題も解消されつつあり、2000年代と比べると2010年代の問題は、全体としては「易化」の傾向が認められると言って良いでしょう。

とはいえ近年でも、下線部を説明させる問題や、下線訳でも指示語を答えさせる問題など、単なる英文和訳ではなく、工夫した出題が多くなっています。また、出題される英文の内容も、なかなか面白いと同時に、「英語の勉強」だけをしていても触れる機会のないような英文が出題されています。たとえば現在の英語圏文化理論で重要な研究を行っているSarah Ahmedの「多文化主義」をめぐる出題がされていたり、また、「環境問題」の系譜学のような研究、かと思えば、「一人向け料理のレシピ本」の序文など、多岐にわたる出題が特徴です。

昴では、英語の学習を、「文法」「語法」「語彙」「構文」などから客観的に理解するとともに、(「背景知識」というよりは)「英語で今まで知らなかったことを知る」という経験を重視して、カリキュラムを構成しています。こういった態度は、東大総合文化研究科、地域文化研究専攻、超域文化論専攻の出題に対応するうえでも役立つでしょう。

また、拙著の宣伝になってしまい恐縮ですが、『詳解 大学院への英語』では、文化論、芸術論、フェミニズム、思想史、文化史などの文章をできるだけ取り上げており、東大総合文化研究科、特に「地域・超域の英語試験」への対策として有効だと思います。

「地域文化研究専攻」「文化人類学分野」「比較文学比較文化分野」「表象文化論分野」それぞれの専門問題や、提出論文については、後日改めて記事を執筆します。

昴教育研究所、英語・論述対策担当 高橋

【関連リンク】

東大総合文化研究科(文系)対策の概要について

東大総合文化、英語Iについて

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