昴教育研究所・言語文化研究所の英語・論述・研究指導担当の高橋です。
2018年度大学院入試もついに佳境に入ってくる時期ですね。
昴で主に進学している大学院の入試対策について、少しずつ更新していきます。
初回の本日は、昴の過去の受講生がもっとも多く進学している、東京大学総合文化研究科専攻(文系)の入試対策の概要を記します。同研究科は複雑な構造をしており、入試対策を考えるうえでも、その点を整理しないといけません。
このカテゴリーに入るのは、東大総合文化研究科のうち、「文系4専攻」および「人間の安全保障プログラム」です。
まず先に、全体像をつかんでしまいましょう。東京大学総合文化研究科は、入試という点では、以下の8つにカテゴリー化できます。
・東大 表象文化論コース
・東大 比較文学比較文化コース
・東大 文化人類学コース
・東大 言語情報科学専攻
・東大 地域文化研究専攻
・東大 国際関係論コース
・東大 相関社会科学コース
・東大 人間の安全保障プログラム(HSP)
組織としては、東京大学総合文化研究科の文系コースは「超域文化学専攻」「地域文化研究専攻」「言語情報科学専攻」「国際社会科学専攻」から成り、それを総称して、「文系4専攻」と呼ばれます。またそこに、所属する専攻を任意に選べる、「人間の安全保障プログラム」が加わります。
ただし、「超域文化学」は実質的に、「表象文化論コース、比較文学比較文化コース、文化人類学コース」という3つの間口に分かれていて、語学の問題は共通ですが、専門は異なる問題が出題され、合格人数も別途にカウントされます。
また、「国際社会科学専攻」は「国際関係論コース」「相関社会科学コース」の2つに分かれ、語学は共通ですが、専門は異なる問題が出題され、合格人数も別途にカウントされます。
「地域文化研究専攻」「言語情報科学専攻」は専攻単位で入試問題が作られています(ただし、地域文化専攻の語学入試問題は、超域文化研究科の3つのコースと共通です)。したがって、院試のうえでは、3+2+1+1+1=8つの部門に分かれている、と考えると良いでしょう。
さて、形式的な話だけでは「そんなこと知っている」という方ががっかりしてしまうといけないので、詳細は後日に譲るとして、東大総合文化研究科の合格を目指すうえで、大事なポイントを簡単にお話しておきたいと思います。
(1)研究と勉強の両立を--「提出論文」の重要性
東大総合文化に限らず、冬期に受験を実施する大学院では、「卒業論文あるいはそれに代わる論文」の提出が求められます(以下、「提出論文」と呼びます)。院試では「研究計画書」という言葉と「研究室訪問」という言葉が注目されますが、上記のような提出論文が課せられる大学院の場合、合否の圧倒的な比重は、「提出論文」の出来にあります。「面接対策」という話もよく質問されますが、それも結局、どこまでこの「提出論文」を高い水準で完成させることがポイントです。
過去の事例を分析するかぎり、特に総合文化研究科の上記の8つのカテゴリーでは、(1次試験突破が条件なのはあたりまえとして)この論文の成否が合否を分けると断言できます。「卒業論文」というのは、人生初のまとまった書き物(そうじゃない人もいるでしょうけれど)として、大変愛着もあるものだと思います。しかし、同研究科のいずれのカテゴリーでも、生半可な論文では合格はおぼつきません。
ぜひ昴教育研究所の論文指導を…と言いたいのは抑えつつ、相当にしっかりと論文を準備しながら、語学対策や専門対策にもしっかりと力を入れないといけない、というのが、この大学院の入試の大変なところだと言えます。
(2)どのコース・専攻・プログラムを志望するか――専攻の名前で判断しない
次に基本的なところですが、志望する院をどうやって決定するか、です。「学際的」大学院の代表格とも言える「駒場」ですので、その専攻やコース名は聞き慣れないものであり、その名前を聞いた瞬間に何をやっているのかわかる方もあまりいないでしょう(あるいは名前で思い浮かべていたものと、やっている内容がずれていたりすることもあるでしょう)。
たとえば表象文化論学会の学会誌として位置づけられる『表象』の2018年の号『表象12』の冒頭には、表象文化論研究の先駆的な研究者の一人である、佐藤良明氏のエッセイが掲載されています。そこで佐藤氏は、「表象文化論」という言葉を説明するために、「『それは、21世紀の文学部です。』と言い放ってしまった」というエピソードをご紹介されています。これは筆者としては、「うまいなあ」とも思うのですが、佐藤氏ご自身はすぐに「ちょっと騙してしまったかもしれないと不安になった」と続けていらっしゃいます。(註1)
いきなりマニア的なエピソードかもしれませんが、「〇〇学って結局何なんだろうねー」というのは、内部の人たちもちょっとした会話の枕として使うくらいの疑問だったりします。また、たとえば「言語情報科学専攻」という名前を聞いて、その中の大きな柱の一本が文学研究である、ということを即座に理解できる人もあまりいないかもしれません。
そういった大学院で、志望先を決定する際、一番重要なのは、教員の情報です。実際に所属している先生を見て、自分の研究に合った先生がいるのか、というところをまずは確認しましょう。なお、東大総合文化研究科は、概して、あまり「研究室訪問」を推奨していないようです。(「研究室訪問」については、改めてまとまった量の文章を書きたいと思います。)そのため、説明会にその先生がいらっしゃっていれば「ラッキー♪」ということで、ぜひお話を伺いましょう。
もちろん、昴教育研究所では、「入学に関する相談」の段階から、志望先大学院のご相談にも気軽に応じております。
(3)語学について――まずは、必要な語学試験を把握しよう
本来、試験に必要な情報というのは、自分の力でしっかりと大学院のホームページを見て、そこから募集要項などにたどり着いて…というのが望ましい。しかし、多くの大学のホームページ(実はこれは和製英語なのですが、やはり便利なので使ってしまいますね)は、迷路のようになっていて、たどりつきたい情報がどの階層にあるのからすら…ということがままあります。
というわけで、手っ取り早く。こちらのリンクの下の方に、東大総合文化研究科の募集要項、入学試験案内、提出課題がpdfで入手できます。そちらをご参照ください。(外部リンク:東大総合文化研究科 「修士課程・博士課程への出願」)
さて、それはともかくこちらのページでも概要を記しましょう。
〇 英語+第二外国語が必要とされる専攻・コース
・表象文化論コース
・比較文学比較文化コース
・言語情報科学専攻
文化・文学・芸術に関わる研究の場合、たとえばその研究対象の言語はできなければいけないのは当然ですし、その専門が英語圏の対象であっても、第二外国語も使いこなす研究者は山ほどいます。世の中がいくら「英語」(それも「実用英語」)を喧伝しようとも、外国語を複数理解できることは、学問においてとても重要なポイントです。
なお昴教育研究所では、第二外国語として、フランス語のクラス授業、ドイツ語のオーダーメイド講座授業を実施しています。いずれの言語も、未修の状態から昴に入学し、試験までの9か月で間に合わせた人はたくさんいます。
〇 英語のみでも受験できる専攻
・文化人類学コース
・国際関係論コース
・相関社会科学コース
「英語のみ」と言って喜んではいけません。それぞれに、出題のレベルは高く、要求される水準も高いと考えてください。それは、それぞれの専門領域からしても当然のことです。
文化人類学コースが英語のみで受験できるのは、ちょっと面白いですね。どの地域をフィールドと選択するかにもよりますが、この学問領域は、それに携わる人の言語能力に強く依存しています。勝手に理由を推測すると、あまりにも必要とされる言語が多様であることや、大学院入学後に集中的に学んで、そしてフィールドワークに向かわなければならない、といった事情が関わっているかもしれません。
国際関係論・相関社会学科学の両コースも、膨大な量の英語の論文・文献を読みこなして行くことが求められるでしょう。
また、上記の3コースは「英語のみ」で受験できるにせよ、第二外国語を別途選択することができます。たとえばフランス政治を研究する人ならフランス語を、ドイツの環境政策を勉強する人ならドイツ語を選択することで、その語学力を示すことは必須でしょう。
〇 人間の安全保障プログラム(HSP)は?
HSPは、独自の筆記試験は実施せず、TOEFLあるいはIELTSの提出を求めています。入学試験実施案内にはわざわざ以下のような言葉が入っています。
「TOEIC はアカデミックな英語力をはかるものでないため、受理しない。」
メッセージ性を感じる文言です。
TOEICも出題形式が変わり、以前より得点を取りづらくなったと聞きますが、アカデミックな4能力を試すTOEFLやIELTSの得点の伸ばしづらさはそれとは比べ物になりません。かなり早い時期から、計画的に準備に取り組んでいくことが必要でしょう。なお、別の言語の能力を証明する書類も提出できるので、英語より得意な言語(あるいは英語に匹敵する言語)があれば、ぜひそちらでも、資格試験や能力試験を受験して、スコアを計上できるようにしておきましょう。
〇 東大総合文化の語学筆記試験の形式や難易度は?
上述のように、HSP以外は、独自の筆記試験を実施します。細かい話は、改めて各コースや専攻の分析として提示しますが、おおまかな内容を示しておきます。
形式:外国語の和訳・和文の外国語訳・説明問題・専攻によってはライティング
基本的な出題は、文章を読ませて、その理解を問う問題が多いです。近年は英文和訳の比重が高まっていますが、(そして英語以外の言語の場合は、もともと和訳の比重が高いですが)、言葉や文の意味を説明させる問題、要約問題も出題されます。いずれも、「なんとなく単語をつなげてわかったふりをする」式の読解では太刀打ちできません。系統だった文法の理解と豊富な語彙力、そしてジャンルを問わない様々な文を読んだ経験が必要となります。
出題の題材は、専攻によって様々です。国際社会科学の場合、雑誌記事や新聞論説など、骨のあるジャーナリズムの文を読ませることが多いですが、経済学の学術文献のイントロダクションなども出題されます。
超域文化学専攻・地域文化研究専攻などの場合、多岐にわたる学術的な内容が出題される一方で、料理本のイントロが出題されるなど、非常に出題は多岐にわたっています。Mark Mazowerなどの歴史家の文が複数回出題される一方で、近年は、Sarah Ahmedなど、英語圏の文化理論の出題も見られました。学術的な英語に触れている講師からすると、「教えていて楽しい」出題が多いとも言えます。
上記のような試験に対応するためには、「芯のしっかり通った語学力」が必要です。いまだに「院試の語学は専門知識が必要」などという「デマ」を流す人もいるようですが、むしろ、「専門を問わない学術的な内容に対応できるだけのちゃんとした外国語力(文法・論理的読解・語彙力)」を持った人が合格できる試験だと思います。
語学のハードルは、極端には高いものではありません。ただし、しっかりとした学習が必要だと言えるでしょう。当然、昴教育研究所の語学カリキュラムは、その合格水準にたどりつくことを目標として、セッティングしてあります。
さて、不定期連載の最初ですが、本日はこんなところで筆をおくことにしましょう。各専攻の専門試験については、日を改めて記したいと思います。
註1 佐藤良明「二一世紀の文学部」(表象文化論学会編『表象 12』、月曜社、2018)、p7
英語・論述・論文指導担当 高橋