「伸びる人の条件」(宍戸里佳先生より)

伸びる人の条件(『しっかり身につく中級ドイツ語トレーニングブック』付録2から)

宍戸里佳(昴教育研究所 ドイツ語講師)

著者はこれまで、大学生や大学院生を中心に、主にドイツ語の読解を教えてきましたが、その10数年にわたる経験から、「こういう人が伸びる!」という 傾向が見えてきました。伸び悩んでいる人は、ぜひ意識改革に取り組んでいただければと思います。

1. 素直に勉強する人

何といってもこれが一番です! 身につけてきた勉強法は、人それぞれ違います。また、特に読解の分野では、自分なりのクセがついてしまっている人も多いです。それを授業で一から覆し、1つ1つ確認しながら読んでいきます。 このとき、この新しいやりかたに順応できる人ほど、上達は早くなります。本書でも素直にポイントを押さえ、指示どおりに勉強してみてください。

2. 自分の手を動かす人

読解の授業では、訳文を自分で作ってくることを推奨しています。自分の手を動かすことは疲れますし、時間もかかりますが、労力をかけた分、自分の身になるのです。また、授業中に自分の訳を直すことで、さらに手を動かすこ とになり、間違えた箇所も確認でき、一挙両得です。ほかの受講生の訳文との比較もできます。

本書でもぜひ、頭の中で解答を考えるだけではなくて、実際に書くようにしてみてください。一見面倒なようですが、この「書いた」という経験は、いつまでも残ります。だまされたつもりで、実践してみてください!

3. 辞書を隅々まで読む人

最近では電子辞書がずいぶん便利になったようですが、本当に辞書を「読んで」いますか? 辞書は、目的の単語を見つけて終わり、ではありません。その単語がどのように使われるのか、訳語や用例を隅々まで眺めなければ、全体像はわかりません。文中での使用例がどれにあてはまるのかを、辞書の用例で 1つ1つ調べていく必要があります。

以前に、この見つけかたがとてもうまい人がいました。どんな単語でも必ず 辞書を読み込み、「この用例と同じではないか?」という見当をつけ、それに あてはめて訳していました。この人は最終的に、どんな文章でも、とても正確 に訳せるようになりました。

本書でも、気になる単語の使いかたを見つけたら、必ず辞書で確認してみてください。これも、自分の手を動かすことになります。何度同じ単語を調べて も構いません。重要な語に印をつけるのもいいでしょう。これが積み重なって、 語彙力や文法力とつながっていきます。

4. いろいろなことに興味を持つ人

これは実践的な意味での勉強法ではありませんが、こういう人は伸びます。 本当に、ほれぼれするほど伸びます!

やはり以前の話ですが、何でも疑問に思う人がいました。たとえば、平日の昼間に家族そろって昼食をとる場面を描いた会話文で、「なぜ父親が帰って来 られるのか」から始まって、「スープを『食べる』ということは、顔を皿に近づけないのか」「お代わりを食卓で取り分けるということは、鍋を食卓に持ってきてあるのか」など、ありとあらゆる質問を投げかけてきたのを今でも覚えています。このときは初級クラスでしたが、この人は結果的に、半年で何でも正確に読めるようになりました。あとから聞いた話では、英語もとてもよくで きたのだそうです。そもそも「疑問に持つ」こと自体が、学問をするうえでの心構えなのだということを、実感する例でした。

本書は文法トレーニングなので、内容への興味を持つのは難しいかもしれま せん。でも、少しでも疑問を感じる箇所があったら、そのまま放っておかずに、 その文法項目に立ち返ったり、辞書で調べたりしてみてください。そのときは時間がかかるかもしれませんが、これが上達への近道になること請け合いです!

5. 行間に思いをはせられる人

「興味を持つこと」とも似ていますが、読んで終わり、という人は伸びません。 読解力を伸ばしていくには、行間を読んでいくことが重要になります。つまり は想像力、ということですね。ある1文を読んだら、必ずその背景にある、その何十倍もの情報を読み取ってみてください。これは、文章と能動的にかかわっていくことにもつながります。きっと、文章を読むことが楽しくなっていきますよ!

☆   ☆   ☆

逆に、いつまでも伸び悩む人は、次のようなタイプです。

×)「専門外の文章だから読めない」と言う人

→  専門外であっても、ドイツ語はドイツ語です。きちんと単語の意味を調 べ、構文がつかめていれば、文章は訳せるはずです。このようなことを言 うのは、文法力が足りない証拠です。単語の意味をつなげて、「読んだ」 気になっているのです。自己流の読みかたをやめ、基礎を固めることから 始めてみてください。

×)自分のやりかたに凝り固まる人

→  「自分のやりかたで合っている」と思い込んでしまっています。どちら かというと、年配の方に多いようです。ぜひ「素直に」心を開き、地道に正しいやりかたを身につけていってください。

×)文章を訳すことにしか興味がない人

→  読んで終わり、では読んだ意味がありません。そこから何を読み取るか が読解では大切になります。実際に自分の研究のために文献を読むときには、何かを読み取りたくて読むはずです。そうでなくては、自分の研究に使えません。ぜひ日本語を読むときのように、文章と対話しながら読んで いってみてください!

 


 

新刊案内

2015年12月17日

宍戸里佳先生の新刊『しっかり身につく中級ドイツ語トレーニングブック(MP3 CD-ROM付き)』がベレ出版から発売されます。詳細は、以下のリンクをご参照ください。

https://www.beret.co.jp/books/detail/599

 

宍戸先生の ドイツ語・オーダーメイド講座 受付中です。

修士論文や博士論文で使うドイツ語文献の、語学面での指導などもおこなっています。

「「伸びる人の条件」(宍戸里佳先生より)」への1件のフィードバック

  1. >そもそも「疑問に持つ」こと自体が、学問をするうえでの心構えなのだ

    「学問(学び、問う、こと)の本質」ズバリ、ですね。 

    廣田鉄斎

コメントは受け付けていません。